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能登のイカの魚醤(いしり)について
日本発酵文化協会 インストラクターの麻日奈 芽実です。
今月から月に1回ほど私の日々の生活の中での発酵に関するお話を綴ってまいりますので、よろしくお願い致します。
記念すべき第1回の記事は1月12日に開催された第1回発酵マイスター定例会より大作を!
すっかり寝かせてしまった感がありますが・・・(汗)
良い感じに発酵していることを願いつつ、少々堅い内容もありますがお付き合い下さいね(^^ゞ
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当日は協会の講師、発酵インストラクター、発酵マイスターからの研究発表のコーナーがありました。
私は発酵インストラクターとして、一昨年よりご縁の深い「能登のイカの魚醤(いしり)について」発表させて頂きました。
そもそも、皆様は魚醤をご存知でしょうか?
魚醤とは・・・
魚を塩に漬け込み、自己消化、微生物の働きで発酵させたものから出た液体成分で、黄褐色・赤褐色・暗褐色の液体。
熟成すると、特有の香りまたは臭気を持ちますが、魚の動物性たんぱく質が分解されてできたアミノ酸と魚肉に含まれる核酸豊富に含むため、濃厚な旨みがあります。
お料理に塩味を加えると共に旨みを加える働きが強くてミネラルやビタミンも含んでいます。
世界ではベトナムのニョクマム、タイのナンプラーが代表的!
能登のいしりと秋田のしょっつる、香川のいかなご醤油を日本三大魚醤と言うんですよ。
能登半島のいしりは、その中でも生産量で日本一なんです!!
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なぜ魚醤づくりが盛んだったのか、いつごろからつくられたかについては正確な資料は残っていません。
しかし、地元の生産者によると、江戸中期以降1700年代の後半にはすでに知られていたようです。
1年を通して新鮮な魚介類が入手できる土地で、魚介の骨や内臓を無駄にしないという生活の知恵から生まれたと考えられています。
地元で水揚げされる新鮮なイカの内臓と塩を交互に桶に入れ、発酵・熟成させて作られる「いしり」は、一般的には晩秋から初冬にかけて仕込み、翌年の晩夏から初秋に出来上がります。
能登町商工会によると、塩の量や漬け込み方、漬け込む年数など生産者それぞれがこだわりをもって作っているために、正確な生産量や生産者数などは把握できません。
今回レポートしたのは、有限会社カネイシのイカのいしりです。
実物もお持ちして皆様に色や香りも感じて頂きました。
イワシ、サバのいしるに比べて、イカの内臓を使ったいしりは墨があるから非常に濃い色になります。
「いしり」の語源
諸説あるのですが、魚のことを「古語」で「いお」または「い」といい、その「汁」が転訛して「いおしる→いしる」または「いしり」となったという説が一般的です。
イカのいしりと漁港
日本海に突出する能登半島の沖合いは、北上する対馬海流の影響が大きく、かつ南下するリマン海流の交錯する好漁場。
そのため、能登は豊富な海産物に恵まれています。
各々の漁港での漁獲量の多い魚介類が使われていて、 イカを原料としているのは、内浦沿岸の小木港、宇出津港(能登町)等の漁港の町。
外浦沿岸の輪島港(輪島市)、蛸島港(珠洲市)、黒島港(輪島市)等の漁港の町ではイワシ、サバ等が原料とされています。
イカのいしりの製造方法
地元で水揚げされる新鮮な真イカの内臓(秋から冬にかけて干するめを加工する際の副産物)と塩を交互に大きな長桶(木桶)に入れ、自然に発酵・熟成させ沈下したエキス分を桶底より流し出し、釜で炊き、ろ過します。(※一番いしり)。
晩秋から初冬(11月頃)にかけて仕込み、翌年の晩夏から初秋に出来あがるのが一般的ですが、商品として生産されるものは、通年仕込んで通年店頭に並ぶようになっています。
なお、まろやかさを増すように2年から3年熟成させるものもあります。
新鮮な原料を高食塩濃度の環境のもとで『自然熟成』させてつくられています。
イカのいしりの発酵の仕組み
基本は、(イカの内臓の)自己消化による酵素発酵です。
但し、有限会社カネイシのいしりは加えて好塩性の乳酸菌による発酵が行われています。
好塩性乳酸菌発酵が加わると、塩の角が取れて味がまろやかになるのですよ。
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自己消化による酵素発酵というのはイカの塩辛も同じですが、生体(イカ)が死後、自己の保有する酵素によって自体の組織を分解することです。
乳酸菌を主とする発酵食品は、植物性だとお漬物、動物性だとヨーグルトや発酵バターなどがあります。
乳酸菌と他の微生物との共生発酵食品には日本酒、ワイン、味噌、醤油、チーズなど。
このあたり詳しくは、ぜひ発酵マイスターでお勉強して頂きたいと思います(*^^)v
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難しいことはこのくらいにして、具体的な製造方法を。
まず大きなタンクにイカワタと塩を充填。
夏が近づき梅雨の気温と湿度が高い状況になると発酵が始まります。
カネイシのいしりは天然由来の家付き酵母によって乳酸発酵がはじまり、そこで一気に発酵します。
その後、秋の彼岸を過ぎる頃にはタンクの発酵は落ち着き、目に見えてタンクの内部が分離。
それから1年以上寝かせることによって底部に溜まった汁の色が黒味を帯び、芳醇な琥珀色のいしりが完成します。
熟成された「いしり」は大きな鉄釜によって釜炊きされ、発酵を止められます。
炊き上がった「いしり」はしばらくの間、容器に寝かして澱を沈殿させてから濾過し、瓶詰めされて初めて完成。仕込から完成まで2年近くかかっています。
調理例
イカのいしりの具体的なお料理も代表的な「いしりの貝焼き」を始め、もっと身近なお料理にも使って頂きたいと思って複数ご紹介しました。
そのまま刺身醤油や、浅漬けのつけ醤油にするのはもちろん、
●汁物の出汁としても使えますし、
●酢の物の隠し味に一さじ、酸味を和らげ、素材の旨みを引き出したり、
●普通の醤油とブレンドしてオリジナル醤油に
●水で薄めてきゅうり、ナス、大根、ミョウガなどを漬ける「いしり漬け」
●煮物料理の隠し味調味料に、ごく少量加えると独特の風味とコクのある旨みが出ます。
●イカのいしり焼きは、イカのいしりと生姜で焼いたイカゲソ焼き。干さずに柔らかだけど、一夜干しを越える旨味凝縮の味にお酒がすすみます。
また、和食だけでなく、中華、洋食にも数滴たらすだけで独特の味わいが広がります。
誰もが簡単に作れるものとして、例えば焼き飯や焼きそばなどに醤油の代わりに入れたり、カレーの隠し味としても新鮮です。
そのままの香りは人によって好き嫌いがありますが、焼いた香りだけは万人に好まれていますよ。
最後は私の考えるアピールポイントと効果の以下4点を様々な図表も用いて詳しくご説明して締めくくりました!
1)能登町発祥の伝統品
能登町では材料の調達、製造、加工、販売までを一人の生産者で賄うこともあり、品質が安定しています。真イカの内臓を使って自然発酵させ、熟成させるいしりは能登町が発祥の伝統品。
2)抜群の旨み
味を評価する形質の指標となり、含有率が高いほど味を評価される総遊離アミノ酸が大変多く含まれています。
3)美容と健康に良い
美容と健康に大切である抗酸化性を示す物質も総遊離アミノ酸同様に含有量がダントツに多い表やグラフがありました。
また、血圧上昇抑制効果や消化吸収に良いとされる低分子のペプチド、胆汁の分泌を促進し、肝臓の働きを助け、肝機能を高めてくれるタウリンも含有されているんです。
4)国際的な調味料としても注目すべき存在
2009年2月、8カ国21人のトップシェフが東京に集結して開催された「世界料理サミット」の展示会場でも能登の「いしり」は注目を集めました。
また、いしりを気に入って使っているイタリアンのシェフによるとオリーブオイル、チーズ、白ワイン等との相性も良いとのこと。
同じ魚醤であるベトナムのニョクマムやタイのナンプラーは、現在普通に日本の一般的なスーパーでも取り扱っています。
でも、それらは同じように魚を発酵させて作りますが、その後砂糖や他の調味料を入れて作り変えられているものが多く、品質が安定していません。
その点、いしりはイカの内臓と塩のみで添加物なし。
商品の品質も安定しています。
その上うまみが高く、健康、美容にも良く、ヘルシーで安心、安全な本物の自然の万能調味料。
また、世界的にもイカを使った魚醤は非常に珍しいんです。
輸出についての状況を調べるにあたり、能登町商工会から紹介して頂き、石川工業試験場(http://www.irii.jp/index.html)の食品加工技術研究室(http://www.irii.jp/sec/kagaku/syokuhin.htm)の道畠(みちはた)氏に電話でお尋ねしたところ、このような回答がありました。
「2年前からFAO(国際連合食糧農業機関: Food and Agriculture Organization)とWHO(と“World Health Organization”の略称「世界保健機関」)の下部機関であるCODEX(コーデックス・http://www.codexalimentarius.org/)消費者の健康を守り、世界共通の基準を設定することによって食品の貿易の公正化を図ることを目的としている国際食品規格)で、Fish Sauce(漁醤)の議題が上がっていて、東南アジアの意見等と現在も協議中。日本人以外の体質に適合しない成分を始め問題点がクリアすれば輸出が一気に広がる。」
もっと日本国内でも認知度を上げることは必須ですが、海外の食材や発酵食品との掛け合わせも面白いし、今に醤油や味噌のように海外でも広く受け入れられるのではないかと注目しています。
実際に2011年春にはカネイシのイカのいしりは、米国ニューヨークで販売されていました。
http://kaneishi.com/goods/ishiri/ishirigotonewyork20101211.html
個人的にもご縁のあった能登半島の活性化という意味でも日本発酵文化協会として先々何か関わりができれば嬉しいと願っています。
ぜひ、皆様もお料理に新しい調味料として新鮮な味と香りを加えてみて下さいね♪
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<ご参考>
有限会社カネイシのイカのいしりのネットショップは下記。
http://kaneishi.com/shouhinshoukai1.htm#ishiri
また、都内ですと下記でお求めいただけるようです。
SAKE SHOP 福光屋 東京ミッドタウン店
http://www.fukumitsuya.com/sake_shop/midtown/index.html
東京都港区赤坂9-7-4 D-B123 東京ミッドタウン ガレリア地下1F
TEL:03-6804-5341 FAX:03-6804-5342
11:00~21:00
※休業日は東京ミッドタウンに準じます
石川県観光物産PRセンター加賀・能登・金沢 江戸本店
http://www.kaga-noto-kanazawa.jp/
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